情報提供・ご意見ご感想などはこちらまで! 記事のご感想は一通一通ありがたく読ませて頂いております。

岸田首相の最大の問題点  ~岸博幸

 岸田首相は10/23に臨時国会冒頭で所信表明演説を読み上げましたが、奇しくもこの演説が岸田首相の最もダメな点を曝け出したように見受けられます。

それは端的に言うと、岸田首相が発する言葉やフレーズには、首相自身の腹の底からの想いや国民に対する愛が感じられないということです(参議院での代表質問で自民党の世耕弘成氏がほぼ同じ指摘をしました)。

 当たり前のことですが、政治家にとって一番大事なのは言葉です。自分の言葉で腹の底から湧き出る思いを国民に分かりやすく伝えて説得し、世の中を動かすことこそが政治家の仕事だからです。小泉純一郎の「改革なくして成長なし」、安倍晋三の「アベノミクスの三本の矢」などがその典型です。

 

あまりに酷い経済・社会のパート

 ところが、所信表明演説の経済や社会に関するパートを読むと、確かに経済の現状分析や課題の抽出、そして対応の方向性について、非常に役人的に綺麗に分析・整理されています。

ただ、逆に言えばそれだけで、岸田首相がどの課題を特に重視しているのか、物価高に苦しむ庶民の気持ちをどの程度分かっているのか、といった点を推察できるような、政治家として発している言葉や表現は見つけられません。役人的な上から目線の文章にしか見えないのです。

https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/1023shoshinhyomei.html

通常、首相の所信表明演説を作る時は、まず官邸にいる役人が各省庁から提出させた政策の短冊をつなぎ合わせ、それに役人的な美辞麗句を加えて原案を完成させます。次に、首相本人やその取り巻きが参加する勉強会で、その原案に首相個人や政権としての思いを加えて修正する、つまり政治の意志を吹き込んで完成となります。そうした通常のプロセスを経ていれば、こんなひどい所信表明演説にはならないと思うのですが。。。

こんな演説をされては、国民が岸田政権を信頼できるはずありません。だからこそ、岸田首相が経済対策や所得税減税をぶち上げても、どうせ国民生活より自分の自民党総裁選再選を考えているんだろうと見透かされ、支持率も低迷したままになっているのではないでしょうか。

 

外交のパートも負けず劣らず酷い

 ちなみに、ご関心ある方は、所信表明演説の外交のパートにも是非目を通して見てください。これは別の意味で酷い出来になっています。

 今年の日本はG7の議長国なのですから、この演説が英訳されて世界に公開されることも考えると、本来はグローバル社会のリーダーとして世界が直面する課題を客観的に俯瞰した上で、日本の戦略的な対応の方向性を語るべきです。

 ところが、演説の内容を見ると、外務省という日本の官僚組織の目線からの世界の課題と日本の対応が羅列されているだけです。驚くべきことに、イスラエルとハマスの戦争がこれだけ世界を揺るがしているのに、所信表明演説ではこの問題について、紛争の例示で一言触れているだけです。

 従って、当然ながら、安部外交の継承という既定路線と、“核兵器のない世界”というリアリティのない主張以外には、岸田首相が政治家として外交で何をやり遂げたいのかという想いを推察させる言葉や表現は見つけられません。これがG7議長国のトップの演説かと思うと、恥ずかしくなります。

 

政治家にとって一番大事なのは言葉なのに。。。

 思い返すと、岸田政権はもう2年も続いているのに、これまでの岸田首相の発言やフレーズで私の記憶に残っているものはほとんどありません。敢えて言えば“新しい資本主義”ですが、その中身があまりに不明確で、市場原理主義の修正→少子化対策→資産運用立国→賃上げとどんどん変わっているので、政治家としての想いとは違うはずです。

 それにしても、今回の所信表明演説は酷すぎます。岸田首相に政治家として命懸けでやり遂げたいことへの想いや国民への愛がまだ希薄なのか、または作文をした役人の壁を乗り越えられなかったのか、よく分かりません。

そのいずれにしても、首相個人の想いや愛が何も伝わらない所信表明演説というのはあり得ません。様々な課題に直面している日本の舵取りをこの首相に任せていて本当に大丈夫なのか、改めて甚だ不安になります。

 ちなみに、余計なことですが、私が尊敬する政治家の一人である参議院自民党の尾辻秀久氏は、参議院議長の時に、亡くなった野党議員への追悼演説で“政治家が自分の言葉で自分の考えを誠実に説明する大切さ”を語っています。

 また、これも私が尊敬する政治家である田中角栄は、「分かったようなことを言うな。気の利いたことを言うな。そんなものは聞いている者は一発で見抜く。借り物でない自分の言葉で全力で話せ。そうすれば、初めて人が聞く耳を持ってくれる」という名言を残しています。

 この二つの名言こそが、政治家の真贋を見極めるポイントではないでしょうか。

 

岸教授へのご意見ご感想はこちらまで。

 

岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。

 

タイトルとURLをコピーしました