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日本の株価は上昇するか?  ~ 岸 博幸


 岸田政権の今の経済政策で日本の株価は今後上がるかと言うと、厳しいと言わざるを得ません。5月5日に岸田総理がロンドンのシティで行った講演がそれを証明しているので、改めてこの講演の内容を振り返ってみましょう。
 シティでの講演ですから相手は欧州の投資家で、日本への投資を促すために行われたのですが、その内容はざっくり言って以下の通りでした。

・日本には課題が多いから改革を進める(“改革”という言葉だけで、その具体策には何も言及せず)

・官民連携で人、科学技術、スタートアップ、グリーン・デジタルの4分野に投資する

・NISAの拡充などで貯蓄から投資へのシフトを進め、国民の資産所得を倍増させる

 残念ながら、これでは海外の投資家は誰も納得しません。彼らは、日本経済の問題点は生産性の低さや新陳代謝の遅れであり、その改善には大胆な改革を進める以外ないと分かっているからです。そうした経済のプロを相手に、改革という単語だけ出して、あとは日本政府が大好きな産業政策(=政府介入)を成長分野でやりますと言っても効果はありません。

 また、NISA拡充で国内マネーを投資に向かわせると言っても、肝心の投資先の生産性改善が期待できなかったら、国民が損するだけで株価の持続的上昇は期待できません。(ちなみに、資産所得倍増というのは政府の公式の場で検討されておらず、この講演用に急拵えで考えたと思われます。)

 こういう内容でしたから、欧米のメディアでは岸田総理の講演についての報道は非常に少なかったのです。大きく報道していたのは日本だけです。

 加えて言えば、この講演で岸田総理は、コロナ対応について“6月に水際対策をG7諸国並みに緩和する”という余計な発言もしています。日本に来てくれと言いたかったんでしょうが、結果的にコロナ対応での先進国と比べた日本の遅れを際立たせただけです。

 以上から分かるように、講演するに足る内容がないのだから、シティで講演をやるべきではありませんでした。それでも講演したのは、せっかく海外に行くのだから総理の出番を作らなくてはと官邸の官僚が慮ったからに他なりません。

 かつ、深刻なのは、関係者の情報によると、講演をやった日の夜、岸田総理は周囲に“自分の講演は評判良かったんだってね”と言っていたことです。

 これらの事実から推測できるのは、岸田総理はともかくとして、官邸の官僚たちは真剣に経済を良くしようとは考えておらず、また総理に耳障りの良い情報しか上げていないのではないか、ということです。

 これでは政策要因で日本の株価が上昇することは当分期待できません。自民党のある人が、ほとんど何もしない岸田政権の支持率が上昇を続けるのを指して“無策無敵”と評していましたが、まさに言い得て妙です。投資をされている方は、くれぐれも政権支持率に騙されないように注意してください。

 しかし、岸田総理は真面目で良い方であることを考えると、ご本人が今の状況で満足しているとは思えないのですが。。。それでも変化が期待できるのは参院選後になってしまいそうです。

岸 博幸(きし ひろゆき)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授、RIZIN(格闘技団体)アドバイザー。専門分野は経営戦略、メディア/コンテンツ・ビジネス論、経済政策。元経産官僚、元総務大臣秘書官。元内閣官房参与。趣味はMMA、DT、VOLBEAT、NYK。

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